別府 beppu(19)2009

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昨日

最低音の弦を太いコルダに張り替えてみると
低音を出すことは耳と皮膚のあいだにある行いのような感じがして
そのあいだにある何かが違った感触とともに
疲れて力の抜けた身体にむかって落ちていった

この数ヶ月のあいだのこと
冬の晴れた夜空から舞い落ちる淡雪
満開の桜とどんどんと散る花びらをみたら
儚さの芯にある固い何かが
身体の隅々まで粉々になって浸透し
言葉と音の手前に身体が触れて
音も言葉も発することができなかった
嘘めいた音と言葉をふり払うように
たいそう絵をみてから
新潟に良寛を旅し高揚した心に
今度は不意に低音の雨が降って
暑さがいっとき和らいだ

うちそとに何かがうごめいているその場に
掛け軸を掛けかえてきたにすぎないが
掛け軸を掛けることによって
消息という言葉に私自身がたどりついた
消息は散逸的で儚く弱々しいが
消息は射程が広く
消息は静寂のなかに動き
消息は生死という切実をかけている

だが消息そのものに
この身体はたどりついてはいない
いつもの反復とずれだが
振幅はいつもより広い
そして不意に落ちる雨音の
たたきつける低音はいつも清々しく
一つの契機を導いているようだ

音も言葉もない何かの生ずる手前にあるうごめくもの
あのすぐ近くにあってすぐに過ぎ去っていくものたちを
耳と皮膚のあいだに聴いていくなら
たどりつくことのないかもしれない
その岸辺はほのかにみえてくるだろうか
岸の形を朧げみえるようにするために
消息を音に掛けたらよいのか
音を消息に掛けたらよいのか

弾く音は
存在の手前
消息
の震えか