paris(2), france 2008

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泣いている子が音楽に聴き入って泣かなくなっていく驚き
音の豊かな経験は身体に大きく語りかけている
その劇的なる変化の始まりは
子の遠視した眼の内側に耳の記憶が宿り
子の耳が子の眼に語りかけて
子の焦点のない眼によって
直観として察せられる

そうして同じ音楽の時空に入り経験するとき
音は場の動きと変化そのものをもたらすための最も優れた媒体である
容易にそのことが理解される

音楽は生とともに向かう
失われたものへと
ここを離脱し
ここへ回帰するように

楽器は失われた生を
生きて奏でるための箱
万有引力に抗するほどに軽い

楽器は失われたものの代弁者であり
音楽は最も身近なる伝道者である

音の場の動きのなかで固定された時空は融解され
その揺れる振動と大気のなかに死が呼び込まれる
その生きた循環のあらわれと流動性のなかに
子の耳は生命力あふれ
ただ浸されている

生死の境目から吹いた息吹が
人間と楽器を介して
ただひたすら音を運んでいる音楽の
素晴らしさ