犬山 inuyama(10)2009

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昼休みに木曽川沿いの道を少し歩いた。夏の疲労が蓄積されると心の癒しを求めるように、手のついていない土の上を歩きたくなる。強い西日にも秋の気配が混じって感じられるようになった。川が青い空を反射している。川の向こう側遠くには、なぜこんなところにあるのか現代風のタワーのような建築物や古びた工場がみえる。風が吹いて腰掛けた場所から程よい距離にある蔦の葉が次々と裏返されると、裏の葉の色は表の色よりも濃いのだと気づく。深く光り輝いてちらちらと揺れるのをみていた。京都で蝉の音を聴いたような素晴らしいひとときが視覚的に蘇ってくる。風は勝手に強まったり弱まったりしている。影のなかの光、抽象のなかの具象、心のなかの身体、物質のなかの精神、そんなようなものをどこかで想っていた。とても美しくてずっと昔の日本の光景、それも夜の月の光に照らされた荒野の風景すら憶われてくるので、風の音も含めて蔦の様子を録画したいと欲が出るが鞄にはカメラもなかった。あきらめて代わりに出して飲んだ水のおかげで、そんなことはすぐにどうでもよくなった。夜の帰途、車中でビルスマのバッハを久々に聴く。前よりもずっと耳がついていく。昼休みのあの休息の、昨日ひいてはいけない風邪をひいたおかげ、不意に与えられた休息は命の源だ。