出雲崎 izumozaki(5)2010

Pasted Graphic 25

いい日和だが仕事を終えて家に帰ると 何とも言えない心地よい虚脱感とともにある

だが このあいだの大雨で 晴れない霧が晴れても 今度は黄砂が城をみえなくしている
黄砂がこなくなっても この眼がかすんで いつもの城はよくみえない
夜の霧の中を走る車のライトは何も照らさない そこにあったもとの道を照らすだけ

ジャンケレヴィッチがいったように 過ぎていく時は戻らない
そして延々とひたすら書いていかなければ 言葉は言葉を超えられない
黒い言葉の先には 何の色もみえない

だまし続けられて それがこれからずっとそうであっても
おこっていることは一つ
もののふるまい その事実と現象がただあるだけ
環境に慣れていくのが生き物
そうした当たり前のことを受け入れないような抵抗の意志
言葉という意志すら容易に麻痺していくものなのか

愚かすぎて不誠実で 人間の存在自体が井の中の蛙であることに自ら気づかなないまま
意志をゆがめていかないと 力が保てずまた力が持てない
そうした力によってでは 危機を脱することができない
ゆがめられた力によってゆがめられた力を制しても
何ももたらされない

生物にとっての生は一回限り 人間も飽和し死滅するまでが命
写真を撮っているとよく経験されるけれど 廃墟がときに美しくも感じられるのは
そこに植物が新たに芽生えてこようとする その力によって


風は
何も知らないかのようにふいて
木々は初夏の強い光のなかで
ひたすら音を立てて揺れている
ひたすらに

何も知らない風になることは
自分の知らないところで
自分の知らない
別な力を生む
そのとき風もまた
風がなにものかを知る

目覚める前の夢のなかで
音が旋律と一緒となって聴こえる
どこかで身体を通じて作用している
とどめることの
どうしてもできない胡蝶の夢

いくらそれがすばらしくて
いくらそのなかにずっと漂っていたくても
もう追いつくことができない忘却の彼方へと
音の夢は
目覚めとともに去る

音をつかみとりたいあこがれが
生きる喜びに通じている
そういう感触が
あの知らない風の力を
知らない場所で予感させている

過ぎ去った音の影
それはどこか
みえないところに
確かにある
残っている
この手という感触の上に
手を風にかざすだけで
その汗をかわかすだけで

意図されていなかった感触が消えるという感触のなかに
はじめて自覚されるそのとき もうそれはない
決して生まれない歌の
その影が
明日の夢のなかで
音となってみえているのだ

だがそれは
今日とどめられない
ずれのなかの錯綜した歌のふるまいは
固定されることなく延々と
風に揺れる木々の音のように
毎日違う形でくりかえされる
みえない歌きこえない歌という一つの響きのような
密林の伸縮からこぼれでた林の音


何かを待機するに足る身体になって やってくるものを本当にはとどめられないということを大事にしていくというその途上にあるならば 一回限りの行いがいかに尊いものか 私にも本当にわかってきたといえるのだろうか だがあくまでも道元は実践を説いている