筋目書き(二十三)

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言語が普遍化され記号化されるほど経験そのものは忘却されていくのかもしれない。だが生の経験は常に自己を呼び出しては世界との平衡が新たに生じ動きながら変化する。突如ふり出した雨が静寂を破り沈黙が破られれば何かが語りだし、身体の誰かが語る。生まれた身体の言葉は青い稲の伸びやかに育つ棚田に自ずから区切られた畝のようにどこまでも動的に曲がり、微細な静的変化に満ちながらもいまここに立つ畝の磁場に鋭敏かつ劇的に応じる瞬間性を内に秘める。身体の光と闇が畝の交差点で交互に立ちあらわれ消え去るその間に間に言葉が空に浮かび上がり、身体は言葉の文脈や意味に束縛されずその色を鮮やかに逆転させる。一つの個体にとってかけがえのない固有の時間を刻み続ける世界は機械のように再現されることがない。やってきた自己は意思において平衡を打破しながら他者に生まれ変わる。たましいは身体の意思の言語に祈りが密着している場所に生じ、常に先送りにされた現実的未来を身体が感じている内部の自発的な運動におもえる。写真と本文へ… to photo and read more…

筋目書き(二十二)

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数時間も生存できないだろう山頂に歩みすすむ登山家の薄れかけた意識のうちにあって、強靭にも保ち続けられている意思が身体のどこか残されてあるだろう。寒さを通り越した山頂のあたたかみのうちにあって、眼に写された氷河から析出する一滴の氷柱に映る光の粒に満ちてくるいま、いま、いまの断ちきられた連続に自己と世界の記憶のなだれ込んだ極微小の虚空面にすべての影が投機されてあるだろう。写真は単なる意識の記号ではなく誰のものでもない意思と葛藤の織り込まれた世界の無垢、その光像として撮られてここにある、そうであるならあらゆる死者の顔の温もりあふれる表情が宿っているだろう。写真に呼び起こされた粒子の一粒一粒が音の粒の束となって生起し躍動しながら遥か遠く知覚されない彼方へと消え去ってゆく。だがいまここに水中に映る月のように知覚の静かに蘇生し目覚めるように俄かにたち現れた鏡の水面に、あのとき撮られなかった世界をうつす写真、音にならなかった世界の聴かれる音楽が揺らぐ。カメラに撮られ音に聴かれることによって存在しだすのは、写真ではなく音楽ではない、動き続ける世界の時間の乱調にあらわれた聖なるイメージの痕跡である。写真と本文へ… to photo and read more…

筋目書き(二十一)

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無常は無ではなく常なるものの否定でもないが即興もまた無常の形とも言えない、はたして即興における意思はどこからやってくるだろう。意思は否定の否定としての肯定ではなく想像が此岸の身体に降りた彼岸の極みにおいて情の飛沫をまき散らしては束ねほどき乱舞する心であり、音と光のない世界その否定から生ずる復活された肯定の力というより、負あるいは負の重なりそのものが条件であるような無条件の地平にそのまま生じてくる。いまここに生起するこの意思という未知の旅の出発点が心の行為へとむかう身体的動機に等しい場所であるならば、即興においてはじめて表現が成立する場所が与えられうるのかもしれない。無為や無の徹底あるいは即興に破壊と抵抗の意思を持ち込むのではなく、無条件というあらゆる条件の彼方にある地平線から駆り立てられるように意思が生じてくる、それがなぜなのかわからない余韻と余白とともに、だからこそ即興は真に自由であり続ける生命。自由。汚染された世界の自己研磨され摩擦から生まれ出ようとしている無垢は、想像力と現実の接点において生じた心と身体の火花飛び散る瞬間的な開放的時空において、苛烈な発火体の動いた行方に待ち受けているであろう静なる何者かによって連続的に支えられつつもその彼方へと向かっていく断続的行為によって磨かれる。
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筋目書き(二十)

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微音量で身体の部屋の窓のようなものを開けて、見えない外側から差し込む淡い光の変化に導かれて鳴りだす音。部屋の内側に音と光が木魂すれば、心の窓辺で光と音が揺れる。私はここにいない、土の中で土の気泡を呑んでいる。思想や浮遊した意識感覚を脱ぎ捨て自己に忠実であることもなく自己を滅せず無に向かうこともなく、ただ天の土に宿したミミズの身体と心で土に差し込んだ光を心と身体に感じるように撮られた写真には何が写されてあるだろう。自己が内側であることがそのまま外側にいることであり外側であることがそのまま内側にいることであるなら心と身体の境界である皮膚の窓は閉じない。鳥籠の中には鳥がいるが籠の窓が開け放たれているのに窓から出ようとはせず、遥か昔から鳥は森の内側であり森の外側から森のすがたかたちをながめ内外を行き来している。写されるのは鳥が幾重にも空間に重なる時の凝集、月光に一様に照らし出された林の織りなす木肌、光の密度と光の束に浮かび上がる色のモノクロームだろうか。光は時間の上で躍りながら世界を巡っている。写真と本文へ… to photo and read more…