carmona(4), spain 2008

shapeimage_1-130

京都先斗町の小料理屋の夜
数年前の妻の記憶と店の佇まいが
私たちを向かわせた
六十年続いているというお店
常連という地元の年配のサラリーマンの方々数人と
店を切り盛りしてきた三代目のお上さんと
大切な時を過ごさせていただいた

握手が苦手というお上さんは
最後に本当に強くしっかりと私たちの手を握ってくださった
私たちのために明朝早く
とある寺社で祈願をしてくださるという
言いようのない感謝の念がこみ上げる

カメラなど最初からかばんに隠していたうえに
筆舌に尽くしがたいようなあまりにもいい時が流れて写真など撮りたくなかったけれど
京都にぜひともっていった父譲りのニコンF224ミリでしまいにはどうしても撮りたくなって
バシャリバシャリバシャリと何枚か撮らせていただいた
音楽のない人の話し声だけがしている小さくて静かな店内
メカニックなシャッターが心地よく響いた
流れた時間と思いがうつる写真でありたいと思った

時はかくもゆるやかに流れるものだろうか
この夜の宴以上にゆるやかに時が流れたためしがあっただろうか
決して忘れることのできない京の昨夜

夕暮れで紅色をした大気につつまれた犬山へかえってきた
この可能性を秘めた地はすでに私の生活の拠点となっていた
犬山という城下町と京都
各々の文化と時代の曲がり角
一つの問いが課せられた思いがした